藤間紫さん

2009.03.28 7:08:04

青森に出張したとき、ホテルのテレビで『振袖始』を見たんです。
藤間紫さんの独自の演出で、
「成敗されるがわにも情けを与える」構成でした。

成敗するのが、無頼漢のスサノオ。
されるのはお姫さまのいでたちをしたヤマタノオロチ(藤間紫さん)です。


ヤマタノオロチも生きていく為に必死だったのが、人間の生活には害になるという判断。成敗を役目づけられながらもそれを不憫に思っているスサノオは、姫の着物袖を成敗しながら破くんですが、『振袖』の事始めとしてヤマタノオロチの名前も後世に残してやると約束するのです。


名前と物語を残すことは、成敗される側にでもかけるべき情け。

私は感動しました。
情けをかけるにあたり、『人間にはつらい思いをさせてはいるが、ヤマタノオロチだけが悪いのではない』と気がつく理性がスサノオにある。
やたらと勝ち負けの結果にドライで薄情な判断がより客観的であるようにおもいがちですが、情を捨てないための理知もあるんだと思いました。


自分都合の善悪だけで『名前と物語』、生きていた実像までを『なかったこと』にしてはいけないと、強く焼き付けられたんです。
テレビをつけたときは私は相当くたびれていて、なんとなくつけたら丁度始まる画面。
自宅にはテレビがないので、あのすぐにでも寝たい時に偶然見ていて夢中になったのも何か、自分が求めていた『心』があるストーリーだったからだと思います。



藤間流の師匠である夫と離れて、紫派藤間流を創設し、年下の歌舞伎役者と再婚。


今よりも考え方の開かれていない時代の日本の芸の世界で、自立する恐怖をのりこえて確立する情熱。それを納得させて波及させる実力、魅力、持続力、才能。天才なのだと思います。


『紫さんはこどものような人』とだんなさまがおっしゃっていましたが、きっと最後まで魅力的な女性でありつづけたことでしょう。

テレビからも十分に伝わってきた躍動感あふれる立ち振舞い、独創性を芸術にできる人の姿。
一度でも本物を見てみたかった。
残念でなりませんが、私に深い感動を与えてくださった藤間紫さんのご冥福をお祈りもうしあげます。