「李恢成の文学」特別展

2012.03.02 22:02:00

北海道立文学館で開催中の特別展
「李恢成の文学 根生いの地から朝鮮半島・世界へ」
(イ・フェソン、Lee Hoesung)
を見に行きました。

芥川賞、野間文芸賞を受賞されている李恢成さんは1935年の2月26日生まれ。偶然ですが誕生日が私も同じなのです!

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樺太で生まれ、両親が朝鮮の北と南の出身。引き揚げた後は「朝鮮籍」なるものを与えられたけど、事実上無国籍同然だったと書かれていました。というのは、朝鮮籍とは朝鮮の国籍という意味ではなく、日本国籍のよこに出身にちなんで朝鮮とかかれていたから通称朝鮮籍であり、
そのままでは朝鮮人なんだけど日本国籍なため、半島に帰国したくでも受け付けてもらえない仕組みだったらしい。

かなり最近になってから韓国籍を取得されたようです。

札幌では向陵中学校と札幌西高に通い、「岸本恢成」と日本名を名乗っていたとありました。

その西校の学校誌によせた岸本恢成時代の「ある自殺」という詩がすごくまっすぐ響いてきて書き写してきました。ご本人の所蔵による、19歳のときの作品。

劣悪な労働条件で働き、蔑まれ、命を落とした若い人の姿に
「優位にたつものが持つ憐憫、あるいは無関心」ではなく
詩の力で
尊厳を持たせようとしている。あるいは尊厳があると信じている、尊厳を認めるべきだと冷静に強く訴えている。
私はそう感じました。

また、この文学展に興味を持つきっかけとなった
「北であれ南であれ、我祖国」
という言葉。会場にそれを綴った色紙がありました。


祖国が分かれているだなんて自分の身の上で想像しようとしたこともなく、ふるさとが分断されている人たちの苦しさを全くわかっていなかったんです。

ただ、ふるさとの国がたまたま激しく二分されてはいないと感じやすい位置に生まれただけで、そういう苦しみを持つ人が、日本だけで考えても沢山いらっしゃるということ。


意識していなかったけど、自分も勝った国の方の考え方(無関心)だったことを恥ずかしく思います。
樺太から引き揚げたのは日本が負けたからでしょ。負けたのは知ってる。と思っていたけどその前の歴史もあって、日本人の方も苦労したとはいえ通称朝鮮籍の方はさらに大変だったのだと思いました。


他に印象が強いのは
「豚殺せ犬走れ」
という原稿用紙六枚くらいの作品。

父上がとさつ業についていたので間近に見ていた経験からか、

「豚は警戒しない。
豚は殺された仲間の豚の血をすぐそばですするのを見て、豚には同胞愛がないと感じた。
犬は、犬を殺す人間が近づくと警戒するし、尻尾を巻いて逃げたりもするけど、しかし子犬にそういう人間が近づくと必死に吠える

人間にも時と場合により豚や犬に近くなることがあるんじゃないだろうか」


というようなお話が含まれていた。私が文豪じゃないため、こう勝手に記憶だけで短くまとめると抵抗感じる方もいらっしゃると思いますが。

李恢成さんご本人の文章には泥臭さとおどろおどろしさがなくストレートに伝わってくる、それ以上に飾ろうとも落とそうともしていないまっすぐな純粋な磨かれた表現があるんです。さすが文学です。なんか書けば書くほど自分がばかみたいな気持ちにもなるんですが(笑)とにかくみてほしい!


興味を煽ろうとするわけじゃない表現なのにひきこまれていく世界。
シリアスだけど陰鬱ではなく、
難しいテーマのはずなのに大きな地平線が遠くに広がりわたるのが見えてくるような気持ちになりました。

上手く言えませんが色々絶望的なものがならんでいるはずなのに、希望がわいてくるのです。
ほんとは皆兄弟になれるんじゃないだろうか。
大変壮大な希望がわいてくるのです。


ご本人直筆の原稿が沢山展示してあり、そのなんともいえないおおらかな読みやすい楷書の筆跡にもひきつけられました。


昔の樺太、札幌の様子を描いたものも多く、道民にはより親近感を持ちやすい著作についての展示と解説も豊富でした。


皆様にも是非、ご覧いただきたい文学展です。

私のこのような説明ではなかなか伝わらないと思いますが、会場を後にして私ははつらつとした気持ちにもなっています。


行く前は、キビシー内容なんだろうなと、あ~なんか結局ひどい日本恨んでます系かなとか?難しいこと言われても悪いけど私にはわかんないんだよなとか(笑)


壮絶な覚悟もしていたのですが

そういう、人を分断、拒絶させるために書かれた文ではけしてないのです~。おもしろいです。


こんなに書いといて私は李恢成さんの世界に今日初めて出会ったものでして本を読むのはこれからなんですが!!

是非足を運んでいただきたい文学展です。

公益財団法人北海道立文学館
http://www.h-bungaku.or.jp